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広島高等裁判所 昭和41年(う)264号 判決 1968年2月27日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月および罰金二、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

本件公訴事実のうち、酒に酔い正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転したとの点につき被告人は無罪。

理由

検察官の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

事実誤認の論旨について。

本件公訴事実一(当審において訴因変更前の)は、「被告人は公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四一年三月一〇日午後一〇時一五分頃岩国市今津町一丁目旧にしき屋附近道路において普通貨物自動車を運転した」というのであり、原判決も、前記公訴事実と同旨の事実を認定したものであるところ、原判決挙示の各証拠を綜合すれば、一応前記事実を認め得られるかの如くであるけれども、≪証拠省略≫を綜合すれば、被告人は昭和三六年一二月二二日山口県公安委員会から普通自動車運転免許を受けていたところ、道路交通法に違反したため、昭和四〇年一一月二四日から同四一年三月三日まで右運転免許停止処分を受けたものであるが、右停止期間中である昭和四〇年一一月二九日自動車を運転したことにより同四一年四月一二日同公安委員会から右運転免許の取消処分を受けたものであって、前記公訴事実に被告人が運転免許を受けないで自動車を運転したとされている昭和四一年三月一〇日は右停止期間が満了してから右運転免許取消処分までの間であり、当時被告人は普通自動車の運転資格を有していたもので、ただ運転免許証を携帯していなかったに過ぎないことが認められるのである。しかるに原判決がこれを無免許運転と認めたのは事実を誤認したことに帰し、その誤認は判決に影響をおよぼすことが明らかであるから、原判決はこの点で破棄を免れない。論旨は理由がある。

次に職権により調査するに、原判決は、被告人は昭和四一年三月一〇日午後一〇時一五分頃岩国市今津町一丁目旧にしき屋附近道路において酒に酔い正常な運転ができないおそれのある状態で普通貨物自動車を運転した(原判示二)との事実を認定し、これに対し道路交通法第六六条第一一八条一項二号を適用したことが原判決書の記載により明らかであるが、その挙示する証拠によれば、当時被告人は身体に呼気一リットルにつき、二五ミリグラム未満のアルコールを保有していたに過ぎないものであることが認められるので、右所為が同条に該当するかどうかについて考察する。道路交通法第六五条は、何人も酒気を帯びて(身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあることをいう。以下同じ。)、車両等を運転してはならない旨規定し、同法施行令第二六条の二は、法第六五条の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は、血液一ミリリットルにつき〇、五ミリグラムまたは呼気一リットルにつき〇、二五ミリグラムとする旨定め、更に同法第一一七条の二は、同法第六五条の規定に違反した者で酒に酔い(アルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれがある状態にあることをいう。)車両等を運転したものは一年以上の懲役または五〇、〇〇〇円以下の罰金に処する旨規定しているので、被告人のアルコール保有量は右規定の量に達せず、従って被告人の右所為は同条に該当しないことは明らかであるけれども、同法第六六条は、何人も前条に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない旨規定するので、右の「薬物の影響その他の理由により」の中に「身体に政令で定める程度に満たないアルコールを保有する状態」が含まれるかどうかであるが、前記第六五条、第一一七条の二の規定は、「酒を飲んで」車両を運転することを無条件に禁止するときは取締が苛酷になり、かえって法律の実効が薄れることを考慮したものと考えられ、その結果「酒気帯び」とは、「身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態」に達している場合に限定し、しかも単なる酒気帯び運転はこれを訓示規定として禁止するに止め、「酒酔い運転」として処罰するためには、更に「アルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれがある状態にある」という要件を加えたものと解すべく、従って同法第六六条は飲酒による運転以外の危険な運転を禁止した規定であって、同条の「薬物」の中には「アルコール」は含まれず、また「その他の理由」の中にも「身体に政令で定める程度に達しないアルコールを保有すること」は含まれないと解するのを相当とする。このことは同法第七五条二項が、車両等の運転を管理する地位にある者は、当該業務に関し、車両等の運転者に対し、アルコールまたは薬物の影響、過労、病気その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転することを命じ、または車両等の運転者がそのような状態で車両等を運転することを容認してはならないと規定して、アルコールの影響を、薬物の影響およびその他の理由から区別していることによっても明らかである。して見ると、原判示二の事実について同法第六六条、第一一八条一項二号を適用した原判決は法令の解釈、適用を誤ったもので、その誤りは判決に影響をおよぼすことが明らかであるから原判決はこの点でも破棄を免れない。

よって量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条一項第三八〇条第三八二条により原判決を破棄するところ、当審において検察官は、公訴事実一につき、訴因を後記のとおり免許証不携帯運転に、罰条を道路交通法第九五条一項第一二一条一項一〇号に変更する旨申し立てたので、当裁判所は、公訴事実の同一性を害さず、かつ被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれがないものと認めて右訴因、罰条の変更を許可し、新たな証拠を取調べたうえ、直ちに判決をすることができるものと認め、同法第四〇〇条但書により更に判決することとする。

罪となるべき事実は、原判示一を「昭和四一年三月一〇日午後一〇時一五分頃岩国市今津町一丁目旧にしき屋附近道路において普通自動車運転免許証を携帯しないで普通自動車を運転し」と改め、原判示二の事実を削除するほか、原判示事実のとおりであり、これに対する証拠は、右一の事実の証拠として、山口県公安委員会の山口地方検察庁岩国支部長宛坂本行弘にかかわる行政処分の取消状況についてと題する書面、司法警察員作成の調査報告書の謄本、被告人の検察官に対する昭和四一年八月一九日付供述調書を加えるほか、原判決の挙示する各証拠のとおりであるから、これを引用する。

法律によると、被告人の各所為中一の所為は道路交通法第九五第一項第一二一条一項一〇号に、三の所為は同法第六二条第一一九条一項五号に、四の所為は同法第三三条一項第一一九条一項二号に、五の所為は同法第六八条第二二条二項第九条二項同法施行令第七条同法第一一八条一項三号に、六の所為は同法第四条二項同法施行令第二条一項同法第一一九条一項一号にそれぞれ該当するが、本件各犯行の態様並びに被告人はこれまでに道路交通法違反の罪により一一回業務上過失傷害の罪により一回各処罰を受けた前歴のあること等記録上認められる諸般の情状に鑑み、所定刑中一の罪につき罰金刑を、その余の各罪につきいずれも懲役刑をそれぞれ選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文第一〇条第四八条一項本文に従って懲役につき最も重い右五の罪の刑に法定の加重をした刑期並びに所定罰金額の範囲内で被告人を懲役二月および罰金二、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは同法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、刑事訴訟法第一八一条一項但書により原審における訴訟費用は被告人に負担させないことにする。

なお、本件公訴事実中、被告人が昭和四一年二月一〇日午後一〇時一五分頃岩国市今津町一丁目旧にしき屋附近道路において酒に酔い正常な運転ができないおそれのある状態で普通貨物自動車を運転し道路交通法第六六条に違反したとの点は前述のとおり罪とならない。尤も原審において検察官は、予備的に訴因を、被告人は同日時頃同所において普通貨物自動車を運転してジクザクに進行し、以て他人に危害をおよぼすような方法で運転したと、罰条を道路交通法第七〇条第一一九条一項九号とそれぞれ追加する旨申し立て原審においてはこれを許可しているけれども、本位的訴因である前記過労運転等の禁止違反の訴因と、予備的訴因である右安全運転の義務違反の訴因との間には公訴事実の同一性が認められないから、右予備的訴因罰条の追加は違法なものとして却下さるべきものであるから、本件公訴事実は、右七〇条違反の点につき判断するまでもなく刑事訴訟法第三三六条により無罪の言渡をなすべきものとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 幸田輝治 裁判官 高橋文思 浅野芳朗)

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